18 January

11年前の1月17日

 阪神淡路大震災から11年がたちました。

 私は当時、朝日新聞・東京社会部の文部省担当記者でした。その日の朝、虎ノ門の文部省内にある記者クラブに出勤すると、すでにテレビでは倒壊した家々や高速道路の落ちた橋げたが大写しになっていました。ところが、死者やけが人が出ているのか、火災は発生していないか、学校はどうなっているのか、被害の詳細はまったくといってよいほど報道されていませんでした。後で考えると、警察を含む行政機能が混乱して被害の全体像がはっきりせず、被災地の各所にいた個々の記者たちも原稿を送る手段がないために右往左往する状態だったのだと思います。

 私はまず、神戸市教委や兵庫県教委、2〜3の公立学校に電話してみました。クラブのボックスにある電話は、災害優先電話なので、ある程度通話が殺到してもかかる仕組みになっているはずなのですが、何回かけても通じません。1時間くらい悪戦苦闘した末、一般回線ではなく官庁の専用線ならつながるのではないか、と思いつきました。各社のボックスには文部省の内線電話が1〜2本敷かれています。普通は文部省内の各部局を取材するためにしか使っていないのですが、この電話が全国の教育委員会や国立大学などと専用線でつながっていることを知っていたからです。

 すぐに広報課に走って官庁電話の分厚い電話帳を借り受け、まず、神戸市教委に電話しました。呼び出し音はします。しかし、何分待ってもだれも出ません。やはりダメか、と半ばあきらめつつ今度は兵庫県教委の番号を打ち込みました。呼び出し音が数十回続いた後、受話器をとる音がして「もしもし」という男性の声が聞こえてきました。「申し訳ありません、普通は鳴らない電話なので受話器をとるのが遅れてしまいました」。県教委の職員らしいその男性はすまなそうに言いました。
 「いえいえ、こちらこそお取り込み中申し訳ありません。私は朝日新聞の文部省詰め記者で、久保谷と申します。地震の被害状況と県教委の対応を聞きたいと思って電話しました。教育長はいらっしゃいますか」
 「教育長はこちらに向かっているのですが、道路が大渋滞してまだ到着しておりません」
 「学校はどうなっているのでか。例えば、県立高校は授業をしているのでしょうか」
 「休校にしました。被害状況を調べるため、今、職員を被災地の各高校に向かわせているところです」
 「市立の小中学校はどうなのですか。本来は神戸市教委に尋ねるべきなのでしょうが、電話に誰も出ないのです」
 しばらく沈黙が続いた後、県教委の職員がポツリと言った。  「壊れています」
 「えっ?」私は意味を図りかねて言った。
 「窓の外に市教委が入った市役所が見えるのですが、建物が壊れちゃってるんです」
 これは大変なことになった。うかつですが、私はこのとき初めて事態の深刻さに気づきました。死者も10人や20人ではないかもしれないと考えて、身震いしました。しかし、被害は私がこのとき考えたより、はるかに大きかったのです(続く)。
 
23:59:41 | journalist | No comments |

08 January

鈴木規雄さんの死を悼む

鈴木規雄さん このブログの初めての書き込みが、こんな悲しい話になろうとは思ってもみませんでした。朝日新聞の鈴木規雄(すずき・のりお)さんが7日、急性骨髄性白血病による呼吸不全で亡くなられたのです。59歳でした。

 若き日、汚職を捜査する警視庁捜査2課担当の記者(通称・ニカタン)として鳴らし、後に東京社会部の遊軍長やデスク、部長として後進の指導にあたられました。

 現実をきちんと踏まえたうえで、論を張ることのできる数少ないジャーナリストでした。その言は、書正論のみずみずしさと取材力に支えられた絶妙の現実感覚を兼ね備えていました。国家権力におもねることがなかったのはもちろん、朝日新聞の社内でも、おかしいことはおかしいと言ってはばかりませんでした。たとえ相手が社長や取締役であってもです。私が知る限り、最も朝日らしい朝日新聞記者だったと思います。

 人間的にも誠実で包容力のある人でした。外では「進歩派」で通っていても、本人は権威主義のかたまりのような記者も少なくないのですが、鈴木さんは私のようなかけ出し記者の意見にもよく耳を傾けてくれました。自然と周りに記者が集まり──本人にその気があったのかどうかは知りませんが──1つの派をなしたのも当然の成り行きだったといえましょう。

 派閥のぜひはおくとして、鈴木さんに派を構え、それを束ねる度量と見識があったことは確かです。

外部からの厳しい批判にさらされ、朝日新聞自体がふらつき自信を失っているこのようなときにこそ、朝日には鈴木さんのようなリーダーが必要でした。残念というほかありません。

心からご冥福をお祈りします。

22:42:41 | journalist | 4 comments |