Archive for 21 October 2006

21 October

高橋先生

 ビュールタウスで数学の講義をお願いした高橋一雄先生の熱意には本当に頭が下がる。以下は先生にお聞きした話。

 ベストセラーになっている「語りかける中学数学」を書こうと思ったのは、「看護士になりたい」という30歳台の女性を教えたのがきっかけだった。看護系の大学に入学するには数?までの数学が必要なのだが、社会に出てかなりたっていた女性は中学の知識もあやふやな状態だった。
 「世の中には数学を勉強したいという意欲を持った人がたくさんいるんですね。でも、大人がふつの塾に行って中学生と肩を並べて勉強するのは抵抗がある。人生の再スタートを切るため、ゼロからやり直そうという人たちの顔を思い浮かべながらこの本を書き始めたわけです」
 出来上がった原稿を自費出版系の会社に持ち込み、数百万円自腹を切って出版にこぎつけた。

 世間的な意味で頭がいい人、勉強ができる人ではなく、社会からいったんドロップアウトした子どもたちにこそ読んでもらいたいと思った。全国の少年刑務所に手紙を書き、出来上がったばかりの「カタスウ」を寄贈した。

 予備校にツッパリ風の若者が来た。数学の知識はほとんどゼロ。基礎からいっしょにやり直した。
 若者は半年後、大検に合格した。満点の成績だった。
 「その子は暴走族のリーダーをしていたそうです。『先生の本に出会ってよかった』と感激していました。うれしかったですね」

 本はわかりやすいと評判になり、インターネットのブログなどでもとりあげられた。しかし、自費出版では増刷などもままならない。そこで、新たな発行元を求めて出版社を回った。

 現実は厳しかった。本は中学数学全体で700ページを超える。「こんな大部のものは売れませんよ」「量を半分に減らしてもらえるのなら、検討しますが・・・」。次々に断られ、原稿をつき返された。学参市場には、軽薄短小、志の低い「参考書」があふれていた。

 やっと出版を引き受けてくれたのが、現在の発売元のベレ出版だった。本は「分厚い参考書は売れない」という出版業界の常識に反して、ベストセラーとなり、版を重ねている。

09:18:44 | journalist | No comments |